『人生の最終段階(quality of death)』の向上を支える作業療法士の寄り添い力

がんリハをやってきて今、思うこと

2017年からがんリハに携わらせて頂きました。
治療を頑張って復帰を目指している患者様、治療がなく人生の最期の一部分に関わらせて頂いた患者様など様々な方に作業療法士として関わり、関わらせて頂いたことへの感謝する気持ちを改めて持ち、作業療法士の良さを再認識することができました。
これを見て、少しでも作業療法士の魅力が伝わればと思います。

がん患者様と私

私ががんリハに携わらせて頂いて間もない頃に担当した方に、田中さんという患者様がいました。
がん治療を行いながら苦しい時にでもリハビリの時には笑顔だった田中さん。
その頃の思い出や田中さん自身の作業療法士に対しての思いを私に語ってくれました。

がんのリハビリテーションとは?

  • 予防期は、治療前や治療早期よりリハビリを行い、機能障害の予防を図っていきます。
  • 回復期は、治療により機能障害や能力低下をきたした方に対して、最大限の機能回復を図っていく時期です。
  • 維持期は、機能障害が進行しつつある方の能力維持を図っていきます。
  • 緩和期は、死期が近づく末期の方に対して、その方の要望を尊重し、「人間らしさ」を追求しながら『生活の質(quality of life)』だけでなく、「人間の尊厳ある死」を視野に入れた『人生の最終段階(quality of death)』の向上を図っていきます。
    その時期においても機能や能力の維持・回復だけでなく精神的なケアもしっかりと行なっていき、可能な限り快適に過ごせるよう支援していきます。

作業療法だから出来るアプローチ

治療の副作用で病院食が食べられず栄養状態が悪くなってきた患者様から食べられそうなものを聞き出し、院外へ患者様と食べに行くことやご家族の方も来て頂き一緒に食べに行くこともあります。
がんの進行で徐々に動けなくなってくる患者様から「できるだけトイレは1人で行きたい」と言われれば動きが維持できるように動作訓練を行いますが、1人で行けるようにご自宅だけでなく病室内も福祉用具などを導入したりして環境調整も行います。
このように作業療法士だからこそ患者様やご家族に寄り添い最後の望みを叶えていけるよう関わっていきます。

がん患者様の中には「もう死ぬからどうでもいい」「つらいだけだ」など希望を持つことができない方や、身体機能が低下していく中で「最後は家で過ごしたい」「最後まで人に迷惑をかけずに生きたい」など最後の望みを叶えて欲しいという方もおられます。
作業療法士は患者様に寄り添い、不安の軽減を図りながら残された時間を幸せに人間らしく生きていくために、その方が望む「作業」、その方に必要な「作業」を通してアプローチを行います。

がん患者様の気持ち

がん病棟には、抗がん剤による副作用で苦しんでいる方や、普段人前では笑っていても病室では毎日泣いている方もいます。
そういう患者様の最後の望みを叶えてあげられるようにと、作業療法士だけでなく看護師や医師も協力し、全員で実現に向けて取り組みます。

また、初めて関わった患者様が既に余命が2週間と宣告されている場合もあれば、1年以上長く関わっている患者様ががんの進行によって余命を宣告される場合もあります。
「あとどれくらい生きることができるのか?」と、がんを発症していることを聞かされただけでも落ち込んでしまう患者様や、余命を宣告された患者様の中には人生のどん底に突き落とされた精神状態になり、生きる希望をなくしてしまう方もいます。
しかし、作業療法士が患者様の最後の願いを叶えられるように関わり寄り添っていくことで、患者様も毎日不安で圧し潰されそうになる気持ちから現実を受け止めないといけないという気持ちや、最後までまだまだ頑張らないといけないという気持ちに変わっていきます。

がん病棟の実際は?

『実際には大きくは変わらず、抗がん剤の副作用で苦しんだり、普段は笑っていても病室では毎日泣いていたりする患者様を沢山見てきました。』

『また、ドラマのように結婚式を挙げていない患者様がいたときは、作業療法士だけでなくご家族や医師、看護師と協力して院内の会議室で結婚式を挙げることを実現できたこともありました。』

『20歳代の患者様は食事もできず一人で歩けなくなっていましたが、家に帰りたいと歩行訓練をして何とか20m程は自分で歩けるようになって家に帰られた方もおられました。』

『入院中に余命宣告された50歳代の男性の患者様は泣いて自分の気持ちを話してくれました。緩和ケア病棟への転院が決まっていましたが、いつでも家に帰られるようにご自宅の環境調整を行い、転院後もご自宅へ何度も帰られました。』

私が担当していたがん患者様からのコメント

『リハビリを通して命をいただいている』(がん患者様 田中さん)

石川先生インタビュー

『作業療法士は患者様の人生を支える最後の砦』(石川先生)

本学院の学生にがんリハについて尋ねてみました

1. あなたはがんのリハビリテーションを知っていますか?

「はい」、「いいえ」で回答

2. 問1で知っていると答えた方は、知ったきっかけを教えてください。

3. がんリハに興味はありますか?

がんリハについて

まだまだ知られていない「がんリハ」

これからも増え続けると予想されるがん患者様に寄り添い、『人生の最終段階(quality of death)』を高めるために、あなたも作業療法士を目指して、学びませんか。体だけではなく、心のリハビリをこの世の命の最後の最後まで続けることの大切さを感じて頂ければ幸いです。

この記事を書いた先生

作業療法学科 教員
石川 貴史(いしかわ たかし)先生
専門領域:老年期、手外科、がんリハ
担当科目:身体障害作業療法Ⅰ、作業療法評価学Ⅱ

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