作業療法士に興味がある高校生のAさんが、作業療法士国家試験のことを詳しく知りたくなり、作業療法士の先生に質問することにしました。
高校生 Aさん
・福祉科に通う高校1年生
・お年寄りが好きで福祉に興味がある
高校生 Bさん
・普通科に通う高校1年生
・将来は人の役に立てる仕事がしたい
三浦先生
・くるリハ作業療法学科の先生
・福祉科の高校を卒業後、介護福祉士の資格を取り、その後、作業療法士に転身
目次
作業療法士(OT)とは
作業療法士がどのような資格であるか、Aさんは作業療法学科の三浦先生に質問しました。
作業療法士とはどのような資格ですか?
業療法士は理学療法士及び作業療法士法に基づく国家資格です。
英語名のOccupational Therapistを略してOTとも呼ばれます。
作業活動を通して人の心と体を元気にするリハビリテーションの専門職です。
国家資格ということは国家試験があるんですね。
そうです。
作業療法士として働くためには国家試験に合格することが必要です。
作業療法士の国家試験の基礎知識
作業療法作業療法士国家試験についてAさんは先生に教えてもらうことにしました。
作業療法士国家試験について、先生、詳しく教えてください。
試験を施行する機関
作業療法士国家試験は厚生労働省が施行する試験です。
現時点では2022年度に実施される第57回国家試験が公示されています。
50年以上の歴史がある資格なのですね。
2021年11月1日現在の日本作業療法士協会の会員数は63,902人です。
日本作業療法士協会 会員数について
受験資格
作業療法士の国家試験を受けるために必要な条件はありますか?
日本または外国で作業療法士の養成施設を卒業した人や、外国で作業療法士の免許に相当する資格を取得した人に受験資格があります。
日本の作業療法士養成施設には何年通えばいいのでしょうか。
3年制と4年制があります。
2021年度時点の全国の養成施設数は約209校です。
作業療法士養成校一覧(2021年度)
受験資格の詳細については厚生労働省のサイトから確認できます。
厚生労働省 作業療法士国家試験の施行 4受験資格
(https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shikaku_shiken/sagyouryouhoushi/)
試験概要
作業療法士の国家試験はいつ行われますか?
年に1回の実施です。
例年では次の概要で実施されています。
筆記試験 | 2月20日前後の日曜日 |
口述試験および実技試験(重度視力障害者に対して筆記試験の実地問題の代わりに行う試験) | 2月20日前後の月曜日 |
合格発表 | 3月20日前後 |
筆記試験の試験地 | 北海道、宮城県、東京都、愛知県、大阪府、香川県、福岡県、沖縄県 |
口述試験および実技試験の試験地 | 東京 |
受験料 | 10,100円 |
厚生労働省 作業療法士国家試験の施行
(https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shikaku_shiken/sagyouryouhoushi/)
試験のスケジュール
作業療法士国家試験の申し込みから結果発表までのスケジュールについて教えてください。
試験までのスケジュールは次のようになります。
受験願書などの書類を提出 | 12月中旬~1月初旬 |
受験票が到着 | 1月下旬頃~2月初旬 |
筆記試験 | 2月20日前後(日) |
口述および実技試験 (重度視力障害者に対して筆記試験の実地問題の代わりに行う試験) |
2月20日前後(月) |
合格発表 | 3月20日前後 |
厚生労働省 作業療法士国家試験の施行
(https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shikaku_shiken/sagyouryouhoushi/)
作業療法士国家試験の合格率と難易度
Bさんは、作業療法士の国家試験の難易度や合格率が気になり、先生に質問しました。
作業療法士国家試験の合格率はどれくらいですか。
第52回から第55回までの受験者数・合格者数・合格率の推移をみてみましょう。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | ||
---|---|---|---|---|
第56回 (2021年) |
5,549人 | 4,510人 | 81.3% | |
新卒者 | 4,895人 | 4,345人 | 88.8% | |
第55回 (2020年) |
6,352人 | 5,548人 | 87.3% | |
新卒者 | 4,795人 | 4,515人 | 94.2% | |
第54回 (2019年) |
6,358人 | 4,531人 | 71.3% | |
新卒者 | 5,137人 | 4,108人 | 80.0% | |
第53回 (2018年) |
6,164人 | 4,700人 | 76.2% | |
新卒者 | 5,289人 | 4,435人 | 83.9% | |
第52回 (2017年) |
5,983人 | 5,007人 | 83.7% | |
新卒者 | 5,303人 | 4,800人 | 90.5% |
第52回~第56回作業療法士国家試験の合格発表についてのデータより作成
https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2021/siken08_09/about.html
https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2020/siken08_09/about.html
https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2019/siken08_09/about.htm
https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2018/siken08_09/about.html
https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2017/siken08_09/about.html
全体の合格率は71%~87%ぐらいなんですね。
難易度はどうでしょうか?
新卒者の合格率は80%~94%と高く、学校での学習や試験対策をしっかりと行っていればそこまで難しくはないといえるでしょう。
ただし、合格率は試験回によって10ポイント以上の変動がみられるため気は抜けません。
作業療法士国家試験の内容【筆記試験編】について
Bさんは作業療法士国家試験の筆記試験の詳しい内容や試験の流れについて先生に尋ねました。
作業療法士国家試験ではどんな問題が出ますか?
詳しい内容について教えてください。
筆記試験の内容
まず、ほとんどの受験者が「口述試験および実技試験」ではなく、こちらの筆記試験を受験します。
問題の内容は一般問題と実地問題に分けられます。
一般問題、実地問題とはそれぞれどんな問題なのでしょうか。
一般問題は基本的な知識を問う問題で、実地問題は臨床の場でみられる事例や症例をもとに応用的な力を問う問題です。
試験問題の傾向は毎年同じでしょうか。
試験問題は適切な範囲とレベルを確保するために「平成28年版理学療法士作業療法士国家試験出題基準」に準じて出題され、定期的に検討・改訂されています。
理学療法士作業療法士国家試験出題基準 平成28年版
筆記試験の範囲
第57回作業療法国家試験においては一般問題、実地問題はそれぞれ、次の科目から出題されると発表されています。
一般問題 | 実地問題 |
解剖学 生理学 運動学 病理学概論 臨床心理学 リハビリテーション医学(リハビリテーション概論を含む) 臨床医学大要(人間発達学を含む)および作業療法 |
運動学 臨床心理学 リハビリテーション医学 臨床医学大要(人間発達学を含む) および作業療法 |
良く出題される科目はありますか?
第56回の試験を参考に、科目別の出題割合をみてみましょう。
共通分野の出題割合は次のとおりです。
出題科目 | 出題割合 | |
---|---|---|
基礎医学 | 解剖生理学Ⅰ(植物性機能の解剖と生理学) | 20% |
解剖生理学Ⅱ(動物性機能の解剖と生理学) | 10% | |
運動学 | 16% | |
人間発達学 | 2% | |
臨床医学 | 病理学 | 7% |
内科学 | 9% | |
神経内科学 | 7% | |
整形外科学 | 8% | |
精神医学 | 10% | |
臨床心理学 | 7% | |
リハビリテーション医学・概論 | 4% |
基礎医学の科目は解剖学、運動学の出題割合が大きく、臨床医学の科目からは満遍なく出題されていますね。
専門分野の出題割合もみてみましょう。
出題科目 | 出題割合 | |
---|---|---|
OT専門分野 | 基礎OT学 | 45% |
障害別OT学(身体障害) | 27% | |
障害別OT学(精神障害) | 28% | |
基礎OT学 | 基礎作業療法学 | 27% |
作業療法評価学 | 42% | |
地域作業療法学 | 31% | |
障害別OT学 (身体障害) |
中枢神経(脳血管障害、ALS、多発性硬化症、脊髄損傷) | 22% |
骨関節 | 22% | |
呼吸、循環、代謝 | 11% | |
末梢神経、筋 | 11% | |
発達 | 11% | |
廃用症候群 | 8% | |
悪性腫瘍 | 4% | |
その他 | 4% | |
義肢、装具 | 7% | |
障害別OT学 (精神障害) |
統合失調症 | 14% |
気分障害 | 11% | |
症状性を含む器質性精神障害 | 7% | |
神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害 | 11% | |
精神作用物質使用による精神及び行動の障害 | 7% | |
成人のパーソナリティ及び行動の障害 | 7% | |
小児(児童)期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害 | 11% | |
生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群 | 3% | |
心理発達障害 | 11% | |
高次脳機能障害 | 11% | |
認知症 | 7% |
OT専門分野、基礎OT学と障害別OT学の中枢神経、骨関節の出題割合が大きいですね。
それ以外にも 10%以上の割合で出題されている科目は多いので、各科目をしっかり対策することが必要ですね。
試験時間と当日の流れ
作業療法士の国家試験は何時間ありますか。
試験日のスケジュールを教えてください。
例年、午前9:50~12:30(2時間40分)、午後14:20~17:00(2時間40分)の午前・午後を通して行われます。
1日中試験があるんですね。
集中力と持久力も要りそうです。
試験は何問ですか?
午前・午後とも100問ずつ(作業療法士の専門問題が50問、理学療法士と作業療法士の共通問題が50問)の計200問出題されます。
作業療法士の専門問題のうち、最初の20問が実地問題となっています。
200問ですか、なかなかのボリュームですね。
試験は筆記とマークシートのどちらですか?
試験はマークシートで、5つの選択肢から1つもしくは2つの答えを選択する形式です。
試験の配点はどうなっていますか?
午前・午後に20問ずつある計40問の実地問題は1問3点で120点満点。
午前・午後に80問ずつある計160問の一般問題は1問1点の160点満点で、合計280点満点です。
作業療法士国家試験の内容【口述試験および実技試験編】
Aさんは作業療法士国家試験の口述試験および実技試験について先生に質問しました。
ほとんどの受験者は筆記試験を受けるとのことでしたが、口述試験および実技試験の対象者や内容について教えてください。
試験の対象者
口述試験および実技試験は、重度の視力障害がある人が筆記試験の実地問題の代わりに受ける試験です。
視力や視野が一定の条件を満たす場合、筆記試験の実地試験は受けずに口述試験および実技試験を受験します。
詳しい条件は厚生労働省のサイトから確認してください。
作業療法士国家試験の施行 3試験科目及び試験方法
(https://www.mhlw.go.jp/kouseiroudoushou/shikaku_shiken/sagyouryouhoushi/)
試験の範囲
口述試験および実技試験の範囲を教えてください。
範囲は、運動学、臨床心理学、リハビリテーション医学、臨床医学大要(人間発達学を含む。)および作業療法です。
作業療法士国家試験の合格基準点
作業療法士国家試験の合格基準点が気になったAさんは先生に質問しました。
作業療法士国家試験は何割ぐらい取れたら合格できますか?
総得点の60%以上(168点以上)かつ実地問題の35%以上(43点以上)がおおよその合格基準です。
合格基準点は採点除外等の問題があると調整されるため、試験回によって異なります。
参考に第56回作業療法士国家試験の合格基準点をみてみましょう。
<第56回作業療法士国家試験の合格基準点>
合格基準点/総得点
165点以上/275点
合格基準点/実地問題の総合計点
41点以上/117点
第56回作業療法士国家試験の合格基準点 | |
---|---|
合格基準点/総得点 | 165点以上/275点 |
合格基準点/実地問題の総合計点 | 41点以上/117点 |
第56回理学療法士国家試験及び第56回作業療法士国家試験の合格発表について
(https://www.mhlw.go.jp/general/sikaku/successlist/2021/siken08_09/about.html)
第56回の試験でいうと、総得点が165点でも実地問題が40点だったら不合格になるんですね。
そうです。総得点も実地問題の合計点も合格基準を満たさなければなりません。
合格基準点を上回る点数をコンスタントに取れるようにしたいですね。
作業療法士の国家試験対策のポイントとおすすめの勉強法
Bさんは国家試験に合格するための対策のポイントやおすすめの勉強法について先生にアドバイスをもらうことにしました。
国家試験の具体的な対策方法や勉強法について教えてください。
おすすめの国家試験の対策方法や勉強法を4つお伝えしますね。
過去問を活用する
1つ目は作業療法士国家試験の過去問で対策することです。
国家試験の傾向をつかみ、問題に慣れておくことは大切です。
過去問はどこで手に入りますか?
厚生労働省のサイトからダウンロードできます。
「第○回 作業療法士国家試験」で検索してみてください。
第55回理学療法士国家試験、第55回作業療法士国家試験の問題および正答について
(https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp200414-08_09.html)
コミュニケーション能力を高める
2つ目はコミュニケーション能力を高めることです。
コミュニケーション能力が必要なのですか?
作業療法士は患者さんとの信頼関係をつくることがとても大切です。
ニーズに沿った支援を行うためにコミュニケーションを積極的に図り、患者さんの情報を得ることも重要です。
理学療法士、言語聴覚士や看護師、ケアマネジャー、介護士などの多職種ともコミュニケーションをとり、連携して患者さんに関わっていかなければなりません。
現場では患者さんや多職種とのコミュニケーションが重要なのですね。
今からできることはありますか?
普段から友達や先生、家族、地域の人などと積極的にコミュニケーションをとるとよいですね。
相手の目を見て笑顔で挨拶することがコミュニケーションのきっかけになることもありますよ。
会話をするときには、話す相手に興味を持って話をよく聴く姿勢を大切にしましょう。
やりやすい勉強方法を見つける
3つ目は自分に合った勉強方法を見つけることです。
例えばどのような勉強方法がありますか?
イラストや語呂合わせで覚えやすくする、スマホアプリを活用する、などの方法があります。
人によって理解しやすい方法は異なるので自分に合った勉強方法を見つけてくださいね。
はい。
自分に合う方法を見つけたいと思います。
勉強の基本である学校の授業はおろそかにしないようにしましょう。
日々の学習を大切にする
4つ目は毎日の学習を大切にすることです。
国家試験前の対策だけでは不十分でしょうか?
作業療法士国家試験の範囲は広く、基礎的な知識があるうえで総合力も問われます。
3年ないしは4年の学習内容を国家試験の直前に復習していては時間が足りません。
では、どのように学習すればよいでしょうか。
毎日の授業を理解できるように復習を積み重ね、わからないところは早めに解決しておきましょう。
作業療法士の国家試験はいつから勉強すべき?
作業療法士の国家試験の勉強にいつから取りかかればよいか、Aさんは先生に聞いてみました。
国家試験はいつから勉強すればよいでしょうか。
国家試験の勉強の内容は、知識を暗記するだけではなく、授業で習った内容を自分の言葉で他人に説明できるくらいに自分の中に落とし込んで理解することが必要です。
作業療法士は人に関わり、人の生活を支援する仕事ですので、表面的な知識だけではなく、身体や心の仕組みやつながりを深く理解したうえでの関わりが非常に大切です。
毎日の授業の内容を復習して、自分のものにしていく習慣が大切ということですね。
そのとおりです。
知識として理解するだけではなく、実際に身体の動きや生活で必要な動作などを自分で行って確認し「実践的に体感する」「もし体や心が不自由だったらどうなるのだろうと想像する」など、常に探求心を持って考え、使える知識としていく意識を持ちましょう。
おわりに
最後に先生から作業療法士の国家資格取得を目指す人・高校生へメッセージをいただきました。
「国家試験は難しい」「不合格になったら仕事を辞めなければならない」などの声を耳にすると不安を感じるかもしれませんが、日頃から授業の復習を大切にして基本的な知識を身につけておけば、直前の国家試験対策時にも焦ることなく過去問に集中できます。
「なぜそうなるのか」と積極的に学ぶ姿勢でコツコツと勉強に取り組んでください。
はい。
先生、ありがとうございました。
先生、ありがとうございました。