作業療法士とは、これからの地域社会に欠かせないリハビリの専門家である

子どもから高齢者まで、障害のあるなしに関わらず、すべての人が住みよい社会である地域共生社会の実現がめざされる今、どの年齢層にもどのような生活の困りごとにも対応できる作業療法士の力が求められています。作業療法士とはどのような職種であるか、理解を深めていきましょう。

作業療法士に関する基礎知識

作業療法士とはどのような職種であるかを確認しましょう。また、作業療法士の国家資格についても説明します。

作業療法士とは


作業療法士とは、病気やけが、生まれつきの障害によって、生活のしづらさを抱えている人に対し、必要な支援を行うリハビリテーションの専門職です。

その人が「今よりも楽に生活できるようなる」「楽しい・やりたいと思う生活を送れるようになる」ために必要な活動を一緒に考え、作業・活動を通して「こころ」と「からだ」の健康維持・回復を促します。

その人が生活しやすいように、生活に関わる場所・人・ものの整備も行います。

障害がある人だけではなく、将来起こりうると予測される障害に対しての予防や、特性のある子どもたちへの教育支援、災害後のこころや生活のケアまで、社会のあらゆるところで必要とされている職種です。

作業療法とは


作業療法とは、「こころ」や「からだ」に障害のある人に対して、日常生活や社会生活を送るために必要な能力の回復を「作業」を通して行うことを言います。

作業療法の「作業」と「療法」の意味とは?


作業療法士の「作業」とは、折り紙や編み物といった手工芸における「作業」のみを指すのではなく、日常生活におけるすべての活動を指します。「トイレに行く」「お風呂に入る」「着替える」などの生活動作はもちろん、「掃除」「洗濯」「調理」などの家事、「勉強」「仕事」などの社会・学習活動、「体操」「遊び」などの感覚・運動活動なども「作業」です。

「療法」は、日常生活や社会生活を送るために必要な能力の回復を図る方法や支援の方法を指し、セラピーとも呼ばれます。

具体的には、身体機能や精神機能、生活動作能力などの改善、維持を促す治療法で、機能や動作を安定して発揮するためのアドバイスや環境整備などの支援も「療法」に含まれます。

参考

日本作業療法士協会 パンフレット
https://www.jaot.or.jp/files/page/kankobutsu/pdf/21_pamphlet.pdf

作業療法士の国家資格


作業療法士は「理学療法士及び作業療法士法」にもとづく国家資格です。作業療法士として働くには国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けなければなりません。理学療法士も同じ法にもとづく、厚生労働省の国家資格です。

言語聴覚士は「言語聴覚士法」にもとづく、厚生労働省の国家資格です。

国家試験についての詳しい内容は次のページを参考にしてください。

作業療法士の仕事内容


作業療法士はどのような仕事をするのでしょうか。作業療法士が対象とする4つの領域とともに仕事内容を説明します。

4つの領域


作業療法士は生活に支援が必要なあらゆる領域、すべての年齢の人を対象としますが、大きく分けると「身体障がい領域」「精神障がい領域」「老年期障がい領域」「発達障がい領域」の4つに分けられます。

身体障がい領域


脳卒中や脊髄損傷、パーキンソン病などの神経難病、関節リウマチ、がん、心疾患、呼吸器疾患などのからだの障害を対象とします。

精神障がい領域


うつ病や双極性障害、統合失調症、認知症、依存症などのこころの障害を対象とします。

老年期障がい領域


加齢に伴って起こる変化や高齢者特有の病気、症状を対象とします。対象とする症状や疾患は廃用症候群、フレイル、骨折、認知症、骨関節疾患などです。

発達障がい領域


発達期に生じる病気や症状、特性を対象とします。対象とする特性や疾患はADHD(注意欠如・多動症)、自閉症スペクトラム、脳性麻痺、学習障害、重症心身障害などです。

参考

日本作業療法士協会 パンフレット
https://www.jaot.or.jp/files/page/kankobutsu/pdf/21_pamphlet.pdf

活躍している場所


作業療法士は、医療(総合病院、精神科病院、小児病院、クリニック、訪問看護センターなど)、介護(介護老人保健施設、デイケア、訪問リハビリセンターなど)、福祉(障害福祉サービス事業所、児童発達支援センター)、保健(保健所、地方自治体、地域包括支援センター)、教育(教育委員会、特別支援学校)、就労支援や刑務所、企業、作業療法士の養成校、福祉用具・住宅改修関連など、幅広い分野で活躍しています。

参考

日本作業療法士協会 まんがでわかるメディカルスタッフの仕事
https://www.jaot.or.jp/files/page/wp-content/uploads/2017/11/ef54c265196f793312af47b105211c3c.pdf

作業療法士の就職先・キャリア


作業療法士の就職先や、就職後のキャリアについて説明します。

主な就職先、活躍している場所


2019年の作業療法士協会のデータによると(休職中と非有効を除く)、就職先の施設は、一般病院、療養型病床、精神病院などの病院・診療所・医療センターといった医療機関が最も多く、全体の73.2%を占めます。

次いで、介護老人保健施設や訪問看護ステーションなどの介護保険法関連施設が12.3%、特別養護老人ホームやデイサービスセンターなどの老人福祉法関連施設4.5%と続きます。

そのほかの就職先は、作業療法士の養成校3.0%、障害児通所施設や入所施設2.5%、就労移行支援事業所、生活介護事業所などの障害者総合支援法関連施設1.1%、身体障害者福祉センターなどの身体障碍者福祉法関連施設および、精神保健福祉センターなどの精神保健福祉関連施設は0.1%です。

特別支援学校、保健センター、リハビリテーション関連企業、職業センター、補助具作成施設、民間の施設など、就職先は多岐にわたります。

参考

日本作業療法士協会 2019 年度 日本作業療法士協会会員統計資料
https://www.jaot.or.jp/files/page/jimukyoku/kaiintoukei2019.pdf

就職後のキャリア


就職後は、「病院や施設、事業所において管理職に就く」ほか、「認定作業療法士・専門作業療法士をめざす」、「スキルアップのための資格を取得する」などのキャリアがあります。

管理職


病院や施設、事業所で臨床経験を積み、中間管理職、管理職とキャリアアップを図り、設管理やスタッフの育成といったマネジメント業務に携わります。より良いサービス提供をめざし、施設自体をとりまとめ、運営していきたいという人に向いているキャリアです。

認定作業療法士・専門作業療法士


日本作業療法士協会の障害教育制度に沿って基礎研修や研修実践、研究実践、臨床実践などを修了し、認定作業療法士の取得をめざします。さらに、自分の興味のある分野や活躍したい分野に関する学びを深め、専門作業療法士をめざす道もあります。作業療法士としての専門性を極めたい人に向いているキャリアです。

資格取得


自身の作業療法士として働くうえでのスキルアップとして、業務に関連する資格を取得し、新しい専門的な視点を身につけ、活躍する道があります。身体障がい領域や老年期障がい領域では、介護支援専門員や福祉住環境コーディネーター、福祉用具プランナー。発達障がい領域では、保育士や特別支援教育教諭。精神障がい領域や地域支援などでは、精神保健福祉士や社会福祉士の資格が取得されています。

作業療法士と他資格との違い


理学療法士、言語聴覚士、看護師、介護福祉士と作業療法士のそれぞれの違いを説明します。

理学療法士との違い


維持・改善をめざす機能と、用いる手段が異なります。

作業療法士がおもに日常生活で必要な、トイレ・食事・入浴・更衣などの応用的動作能力や就労・就学・社会活動などの社会適応能力の維持・改善を行うのに対し、理学療法士は立つ・座る・歩くなどの基本的動作能力の維持・改善を行います。

また、手段として作業療法士が「作業」を用いるのに対し、理学療法士は「運動療法」や「物理療法」を用いる点が異なります。

参考

日本理学療法士協会 理学療法士とは
https://www.japanpt.or.jp/about_pt/therapist/

言語聴覚士との違い


言語聴覚士は食べる・飲む機能やコミュニケーション機能の維持・改善をめざします。具体的には、発声やことばの理解を促す、飲み込みの練習、姿勢・食事形態・コミュニケーション手段の設定・助言などを行います。高次機能障害など、作業療法士と同じ機能へアプローチする場合もありますが、言語聴覚士が専門とするのは、読み・書く・聞く・話す・食べる・飲む機能へのアプローチです。

参考

日本言語聴覚士協会
https://www.japanslht.or.jp/what/

看護師との違い


看護師は療養上のケアや健康管理、診療補助を行うのが仕事です。作業療法士と違い、医師の指示のもとに与薬、点滴・注射、血糖測定・インスリン注射、摘便などの医療行為を行えます。

介護福祉士との違い


障害が持ち、日常生活のしづらさを抱えている人を対象にする点は作業療法士と同じですが、作業療法士が生活に必要な機能や能力の維持・改善を図るのに対し、介護福祉士は介護や介護に関する指導を行う職種です。

参考

全国社会福祉協議会 福祉の資格
https://www.shakyo.or.jp/guide/shikaku/setsumei/02.html

作業療法士の強み・国家資格を取得するメリット


作業療法士の強みについて、国家資格、求人倍率、やりがいの面から説明します。

国家資格である


作業療法士は厚生労働省が実施する国家試験の国家資格です。文部科学省によると、国家資格とは「法律によって一定の社会的地位が保証されるので、社会からの信頼性は高い。」(出典:文部科学省 国家資格の概要について)とあり、社会的に認められた仕事です。

国家資格がないと作業療法士として働くことができないため、一度仕事を離れた場合も再就職しやすいという強みもあります。

求人倍率


2021年1月の作業療法士(医療技術者)の有効求人倍率(パート含む)は2.84倍です。求職者よりも求人数が多く、作業療法士の需要が高いことが伺えます。すべての職業の有効求人倍率は1.04倍であり、一般的な求人倍率よりも作業療法士の求人倍率は高く、仕事も選びやすいと言えるでしょう。

参考

厚生労働省 一般職業紹介状況
https://www.mhlw.go.jp/content/11602000/000743486.pdf

やりがい


作業療法士のやりがいは、人の生きざま、人生そのものに関わることができる点にあります。生活のしづらさを抱えている人が、自分のやりたいことを見つけて自分らしく生きるために前向きになっていく姿や、今までは躊躇していたことにもチャレンジする姿を傍でみられることやりがいを感じます。

作業療法士自身の生きざまや考え方、趣味、特技などを武器にして、自分にしかできないサポートを行える点もやりがいのひとつです。試行錯誤しながら目標を達成するために考え、進んでいく過程で自分も成長できます。今まで歩んできた人生や、患者と関わって得られた価値観や感情、学びなど、すべてを仕事に生かすことができる点も魅力です。

作業療法士に向いている人


作業療法士に向いているのは、人に興味を持てる人、「なぜ」という疑問を持って探求できる人です。人の生活そのものに関わる仕事のため、人に興味を持てることは大切です。また、どうしてこの状態なのか、どうすれば改善できるのかなど、患者が今よりもよりよい生活を送るために「何が必要なのかを考えられる人」、「いろいろなアイデアを出して積極的に動ける人」が向いています。

患者だけでなく、家族や多職種とも連携をとって生活をつくっていく仕事のため、コミュニケーション力もあると仕事を進めやすくなります。

作業療法士の将来性


作業療法士の活躍の場は、病院や施設などにとどまらず、教育の場や就労支援、企業、地域社会にも広がっています。対象も病気やけがで障害のある人だけでなく、特性を持つ子どもや加齢によってからだやこころの機能が衰えてきた高齢者など、生活に支援が必要なすべての人に必要とされています。

それは、作業療法士の持つ視点が、「今、その人が困っていることに着目し、より良い生活を送るために何が必要かを見極められる」という点にあります。さらに、「その人自身が持つ力を高めて、周りの環境を整える技術で、今よりも過ごしやすくなる変化をもたらすことができる」点にあります。

「こころ」と「からだ」の両面から作業を通して人を元気にできる作業療法士は、子どもも高齢者も障害のある人もない人も、あらゆる人が共に支え合う地域共生社会の構築において、欠かせない職種です。